「松井、頼むから今回だけは打たないでくれ」;MLBラボの松井名場面ベスト1

2003年10月16日、アメリカンリーグチャンピオンシップ最終第七戦。そう、翌年にまで渡るヤンキース対レッドソックスの死闘。ヤンキースに軍配があがったシリーズのクライマックスだ。レッドソックスの先発は、大エース、ペドロ・マルチネス。舞台は敵地ヤンキースタジアムといえど、エースがワールドシリーズに導く可能性は高い。しかもペドロは七回まで二失点と期待通りの仕事をしていて、三点差のリード。ワールドシリーズ進出はもう手の届くところにあった。

八回もマルチネスはマウンドへ。一死となった後、ジーター、バーニー・ウィリアムスの連打で2点差に。そして打順は松井に回ってくる。8回裏一死一塁という場面だった。レッドソックスファンの私はこう呟いたのを覚えている。

「松井、頼むから今回だけは打たないでくれ」

人間の記憶というものは面白い。私はその後の何年も、松井が放ったのは同点打だと思いこんでいた。ヤンキースに流れを呼び込んだ痛烈な一打だったのと、大ファンだった松井に打たれたという二つの大きな衝撃が、事実をねじまげて記憶させたのかもしれない。今見返しても、火の出るような当たり。当時、興奮の絶頂にあった私の脳みそをぐらつかせるには十分すぎた。

今となってはこの打席の後の出来事も思い出せる。当時、中継を観ていた瞬間では、まだレッドソックスにも幸運は残っているように思えた。松井の打球を愚かなファンがさわってしまい、エンタイトルツーベースと判定、タイムリーにならなかったのだ。

しかし驚いたことに、ボストンのグレイディ・リトル監督はこのあともペドロを続投させた。まだリードしていたのに、危機的な状況のなか何も手を打たなかったのだ。次の打順はポサーダ。結果は同点の2塁打。その後延長にもつれこみ、これまた伝説のブーンのサヨナラホームランで終わる。

2009年のワールドシリーズの活躍が、松井にとっての野球人生のハイライトであったことは間違いないけれど、私にとってもっとも印象深いシーンは、この2003年のリーグチャンプオンシップ。10年近く経った今でも、これほど記憶に焼きついているプレーは無いし、これからも無いかもしれない。

ヒデキ、ありがとう。

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